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清水玲子『秘密―トップシークレット―』1・2・3巻(白泉社/ジェッツコミックス)

清水玲子さんの「秘密―トップ・シークレット」(白泉社/ジェッツコミックス)既刊3巻を読みました!

秘密―トップ・シークレット (1)秘密―トップ・シークレット (2)    Jets comics秘密(トップ・シークレット) 3 (3) (ジェッツコミックス)

近未来、遺体の脳から視覚の記憶を映像化する技術が生まれた――
事件の捜査のために死者のプライバシーを覗き見る者たちを描くSFサイコサスペンスストーリー。
現在白泉社月刊「メロディ」に連載中。

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「月刊ララ」(白泉社)で、はじめて読んだ清水玲子さんの作品の美しさに心奪われてから早うん十年…。
この方の絵柄はデビュー当時からほとんど変わりがありません。

つまり、デビューの時からこの流麗で繊細で超絶的に美しい絵を描いていらっしゃいました。
100万ポンドの愛」(白泉社文庫)でその頃の作品が読めますが、トーンが今ほど進歩していなかった時代に、ペン一本で描き出す線の美しさにはため息が出るほどです。

当時バイブルとも思っていた「ミルキーウェイ」「竜の眠る星全2巻」「天使たちの進化論」の“ジャックとエレナシリーズ”は、白泉社から文庫版が出たときに即効買いに走ったものです!

「秘密―トップシークレット」は、そんな清水さんの真骨頂とも言うべき作品。
美しい絵柄と緻密に構成されたプロット、斬新なストーリー展開は今もさらに進化し続けています。



舞台は近未来。
死者が生前に見たもの脳から映像化するMRIスキャナーが登場し、難事件を解明出来るようになる。

1巻第1話「秘密―1999」は米国が舞台。
MRI捜査の技術が確立した頃、大統領が何者かに暗殺される事件が起こる。証拠の少なさから、捜査本部はその遺体の脳をMRIスキャナーにかけることに。しかし、そこには故人が死んでも守り通したかった「秘密」が映っていた。

MRI捜査によって大統領が命を賭しても守りたかった秘密が白日の下に暴かれ、スキャンダルとして衆人に知れ渡っていくことの不条理さ。
「秘密」が「秘密」でなくなることに対する恐怖、死者に対する畏怖の念…。
様々なことを考えさせられる物語です。
大統領の秘めた想いが切なく、いたたまれない気持ちになります。


第2話「秘密―2001」はまた少し時間が進んで、日本が舞台となります。
新人警察官青木(黒髪長身眼鏡の清水先生定番キャラ)の配属先は、最先端のMRIスキャナー技術を駆使して難事件を解決していく科学警察研究所法医第九研究室(略して第九)。
薪剛(まきつよし)室長(警視庁エリートの警視正。一見紅顔の美少年ながら年齢は不詳)をトップに、凶悪犯Kとの因縁の話が展開します。

凡人の想像を絶する殺人犯の抱く狂気、被害者の感じる底知れぬ恐怖。
その心の闇をMRIスキャナーを通して見る事で心身ともに疲弊していく捜査官の心理描写が実に巧く描かれています。

1巻では薪さんがその魅力を最大に発揮!
まだ可愛げがありますね。
自分が原因の事件だから、苦悩する姿も初々しい…。笑

この薪さん、可愛い外見とは裏腹に巻を追うごとに鬼上司ぶりが増してきて、誰も逆らえなくなりますが…。
この頃は青木との関係も微笑ましいですね~。

2巻第1話「秘密―2002」では第九に配属された女性捜査官・天地が事件に巻き込まれます。
天地の運命を思うと、いたたまれない気持ちになりますが、青木の真面目さ、その人柄の良さが前面に出ていて好きなお話です。

2巻第2話「秘密―2003」は青木を中心に物語が進みます。
父親の葬儀を終えて仕事に復帰した早々、青木は「特捜」の命を薪から受けることになる。
すでに死刑が確定し、執行された後の犯人の脳を見ることにより「事実」が明らかになったとしても、その刑が覆されることはなく、ただ報告書をまとめるだけの行為。
そして、その死刑囚の脳にこそ、真犯人の姿が映っていた…。

死んだ父親が自分の仕事のことをどう捉えていたのか、そのことに悩み、周囲からの心無い言葉に傷つきながらも仕事に対して真摯に立ち向かい真実を明らかにしていく青木の姿に、MRI捜査官としての底知れない苦悩と可能性を見ることが出来ます。


薪さんシンパ(笑)の岡部など、第九メンバーの存在も物語に奥行を与えて、薪と青木のコンビネーションもますます絶好調です!

そして、最新刊の第3巻「秘密―2005」は途中清水玲子さんが産休を取ってお休み後、連載が再開されたファン待望の1冊!

出産を経て復帰後もその画面の美しさには遜色なく、物語は凄惨な事件を扱っていながら親と子の情愛の深さがその根底に流れており、秀逸。

清水さんの漫画にはよく「性」が特別な意味を持って描かれることが多いのですが、(「月の子」のセツとベンジャミンしかり。セクスレスのロボットであるエレナしかり。)、ここにも凶行によって残酷な運命を背負うことになった少年が登場し、胸が痛みます。


ところで。

作中にたびたび登場する「美しい」死体が連載当初から話題になりましたが、清水さんの精緻な描写によってあまりに美しすぎる描かれ方のためにかえって現実感が乏しいような…。

物心ついた頃から自宅の書棚にあった「人体図鑑」を眺めるのが好きだった私には、この「人の体」に清水さんが惹かれる気持ちがとてもよくわかります。
(「ブラック・ジャック」での手術シーンとかも大好きでした!あの頃は本気で外科医になりたいとさえ思っていた夢見る夢子ちゃんだったなぁ…汗)


この作品を読んですぐに、ある写真集が脳裏に浮かびました。

それがこちら、「解剖百科」(フィレンツェラスペコーラ美術館/タッシェンジャパン)。
フィレンツェのスペコーラ博物館にある、18世紀に蝋で製作された“人体解剖模型”の写真集です。

解剖百科 (タッシェン・アイコンシリーズ)

『解剖百科』(タッシェン・アイコンシリーズ)

ヨーロッパ精神史の伝統や18世紀末における人体解剖の認識・知識度を伝える、ラ・スペコーラ美術館の希少な解剖学用蝋製人体モデルコレクションを完全カラー図版で紹介する。




「人体解剖の知識を伝えるうんぬん」…などと、最もらしい解説がついておりますが、それらの蝋人形から立ち昇るのは「死の匂いを湛えた濃厚なエロティシズム」に他なりません。

その模型の精巧さはまさに芸術品。
学生時代に初めてこの本を目にしたときは、感動さえ覚えたものです!

そして、こういう世界が苦手ではないのなら、『解剖百科』とあわせてご紹介したいのが『バロック・アナトミア』(パン・エキゾチカ/河出書房新社)です。

バロック・アナトミア (パン・エキゾチカ)
こちらに収録されている「解体されたヴィーナス」と名づけられたこの少女の蝋人形は「ラ・スペコラ美術館」最大のハイライト。
16歳の美少女の死体がモデルとなった鑞人形は、ボッティチェリのヴィーナスさながら真珠のネックレスをつけ、寝台に横たわっています。
その腹部にあたる蓋ははずせるうえに、内臓をひとつひとつ取り出し、最後に子宮の蓋を開け、中の胎児を覗くことすらできる…という精巧さ。
腹部を開かれて腸を晒した少女は、バロック彫刻さながらに身をよじらせてポーズをとり、小さく微笑んでさえいます。

解体されたヴィーナス
バロック・アナトミア―フィレンツェ」より―佐藤明撮影


どんな優秀な脳、優れた外見を持つ人間も、一皮向けば中身は全て同じ。
骨格、筋肉、神経線維、血管、臓器…の集合体。
そんな当たり前のことを思い知らされますが、その圧倒的な存在感を前にしばし言葉を失うはずです。

数百年前、どんな人間がどんな情熱を持ってこの蝋人形を作ったのか想像するだに楽しいものですが、きっと清水さんも「人体の持つ飽くなき美しさ」を紙面に再現したかったのだと思います。


絵柄の美しさだけでなく、読む人の心を掴む巧みなストーリー展開で新たなファンを獲得したであろうこのシリーズ。
薪さんと青木の今後も気になりますし(笑)、次回作が楽しみです。

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コメント

絹子には情緒酌量の余地無しと言う意見もあります。
私は彼女に同情しますけど。
名無しさん、こんばんは!
絹子のエピソードは、彼女の可憐さと反比例するような凄惨なシーンが多く、とても印象的でしたね。
私も絹子には同情を禁じえません。
そして、ラストシーンも秀逸で、涙なくしては語れません。
「秘密」で一番好きなお話です。

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