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小野塚カホリ「美剣士」(マガジン・マガジン/ジュネコミックス)

小野塚カホリさんの「美剣士」(マガジン・マガジン/ジュネコミックス)を読みました!

美剣士
江戸末期。戸山藩五万石の小姓を勤め、大鳥家の家督を継ぐ身分である菊之助と、下級武士ながらその剣の腕を買われ剣術指南役として城中に出入りしていた大月重四郎は師弟の間柄にあった。ある夜重四郎が藩を出奔したことを聞きつけた菊之助は、自らその捜索役を願い出る。「鬼ゆり峠」で雲助の用心棒に身を落としている重四郎を見つけた菊之助だが、その頭である定次の策略により監禁され手篭めにされる…。その姿を目の当たりにした重四郎のとった行動とは…!

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こちらは団鬼六氏著「鬼ゆり峠」にインスパイアされて、小野塚さんが自らBLむきに仕立て直した作品とのこと。BOY'Sピアス2006年3~11月号に掲載されました。

小野塚さんの時代物と言えば、「」「美少年」(マガジンマガジン)、「我れに五月を」(新書館)などが思い浮かびますが、いずれも近代が舞台です。ご自身も仰るとおり江戸モノは始めての挑戦とのこと。

いつものスタイリッシュな現代モノも魅力ですが、着物に脇差、大仰な台詞回しに侍・前髪若衆姿の主役2人もたいへん魅力的でした!




タイトルが「美剣士」というだけに、主役は美少年剣士の菊之助。
元服前の若衆姿ってことは、12~16歳までで考えて顔立ち身体つきからもおよそ15歳ってところでしょうか?
う~ん、一応ショタではない!ということでちょっと安心したりして。
ホントに駄目なんですよね。
ショタ…萌えません。

重四郎は菊之助の「兄とも父とも思っていた」という台詞があるので、かなりの年上と推察。
容貌からいっても、30過ぎ~半ばってところでしょうか。

さて。

「菊花の契り」みたいな雰囲気がでないかなー(著者あとがきより)

との小野塚さんの狙いは当たったのか、外れたのか。

上田秋成著『雨月物語』の中の一遍に「菊花の契り」というお話があります。

主君の仇討ちの旅の途中で疫病を患った赤穴(あかな)宗右衛門は、儒学者丈部左門(はせべ)の手厚い看病を受けて、命を助けられた。赤穴自身も兵法に通じた知識人であり、二人はともに語らううち兄弟のように親密な関係になる。
やがて赤穴は旅立つが、陰暦九月九日の菊の節句の日にはどんなことがあっても必ず会いに帰ってくると約束を交わす。
ところが出雲の国富田の城に行った赤穴は、猜疑心の強い代官経久(つねひさ)のために、城に閉じ込められてしまう。
丈部左門との約束の日が迫り、城を出してもらうおうと懇願するが聞き入れてもらえない。
ついに思い余った赤穴は、「人一日に千里を行くことあたわず。魂よく一日に千里をもゆく」と喝破して刀を自分の胸に突きたて、丈部左門が酒宴の用意をして今や遅しと待ちかねている所へ死霊となって約束を果たしに駆けつける…。

という、まさにホ○色丸出しのお話です!

そんなわけですから「江戸時代って現代よりもはるかに男色がまかり通っていた時代じゃないのかしらん!?」との素朴な疑問が頭をよぎっておりました。
「男に惚れるってなあ ほんにどんな気分でごぜえやすか」と定次が重四郎に問うくだりで…。

江戸時代の武士階級における男色は単なる好色の一部ではなく、武士道と融合して一つの流儀を形成していたのでは!?
これがいわゆる「衆道」の本来の姿だと、渡辺多恵子さんの「風光る」(小学館)で新撰組三番隊隊長・斉藤一先生も言っております。笑
そう考えると、殿の小姓として寵愛されていた菊之助が「お清」(この言葉初めて聞きました!)だったことや、重四郎の苦悩にも納得できる気がしたり。


互いに惹かれあいつつも、身分の差を慮る重四郎はその距離を縮められないでいた。ある夜、ふとしたことをきっかけに菊之助に触れようとするが抵抗され、そのことを心の重荷とした重四郎はついに藩の出奔を決意する…。


重四郎は幼い頃養子に入った大月家を盛り立てることを使命としていた背景もあって、主君の寵愛目出度い菊之助をどうこうする勇気などはなかったはず。
嫉妬から冒した一時の勢いを菊之助に拒まれて正気に返ってのちは、ひたすら現実から逃げることしか考えない駄目な大人…といえると思います。
でも、江戸時代の武士階級制度を考えるとそれも仕方のないこと。
所詮、霞とプライドを喰って生きているような下級の武士に身分の差はどうすることも出来ないのですから。


脱藩した重四郎のあとを追ったがために菊之助に襲い掛かかる恥辱の数々…。だがそれによって、皮肉にも二人は結ばれる。その頃、菊之助の侍女である千津の機転により戸山藩には大月重四郎発見の知らせが届いていた。千津から脱出の仔細を聞いた菊之助は、重四郎とすべてを捨てて逃げる覚悟を決める…。

結局どこまでもヘタレな侍(笑)重四郎を足蹴にしてまで、自分の思いを遂げた菊之助。
さすが若様!これぞ大鳥家の嫡男です!←千津心の叫び?
じゃなければ死んでも死に切れませんよ。

やっと二人が結ばれるシーンでは、小野塚さんの十八番の官能世界が炸裂していて神々しいほど…。
髷を落とした浪人風情の重四郎が格好良く、これまでの不甲斐なさを一気に払拭するほどです。
寄り添う二人の姿には、無事に脱出して欲しいと祈らずにはいられません。


雪中の脱出に成功したかと思った矢先、戸山藩の追っ手に追い詰められる重四郎と菊之助。その二人を悲劇が襲う…。

以下重大なネタばれなので反転…
最後、脱藩の咎を責められ「無宿」とされた重四郎は戸山藩主の短筒(拳銃)によってあっけなく銃殺されてしまいます。その後を追おうとした菊之助は、切腹すれど絶命には到らず、大鳥家も取り潰しとなった後正気を失い、余生を千津に面倒を見てもらい過ごすことになります。

あまりに急に訪れた二人の別れが、心に痛いです。
武士としての掟を破った二人には、武士として死ぬことも許されなかった…。


この結末が彼らの愛の行く末だと考えると、冒頭の千津の台詞

…武士だからとて…何が出来ましょう 無力です

この言葉が胸に響きます。


作中に登場する定次親分がまたいい男で、重四郎に何かと絡んで煽ってくるのでそっちに気があるのかと期待してしまいましたが、あてが外れ残念。←!?
巻末に収録された「浮世恋唄」(BOY'Sピアス2007年3月号掲載)では、絶世の美形女形菊之丞としっぽりやってくれてます。

菊之助に手取り足取りあんなことこんなことを仕込んだ三五郎親分も、結局かわいいおっさんで憎めません。
このキャラで「体毛」に目覚めたらしい小野塚さん。
内田かおるさんの描写に比べたら、まだまだかわいいものでしたよ。笑


結局「美剣士」は身分に翻弄された二人の悲恋物語ということになるのでしょうが、小野塚さんならではの繊細かつ大胆、独特の雰囲気のあるペンタッチが時代物にもよくあっていることを実感。
はじめての時代物も、違和感なく物語の世界を楽しめました。
さすが小野塚さん、官能と退廃を欠かせたら右にでる作家さんはおりませんね!

菊之助と千津のバタくさい(死語)風貌が江戸モノとしてはいかがなものかと心配でしたが、物語に集中すればいっこうに気にならないものです。笑

今後もっと時代物に挑戦して、新境地を開拓していって頂きたいと思いました。

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