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杉本亜未『ファンタジウム 1・2』(講談社/モーニングKC)

すごくすごく楽しみにしていた杉本亜未さんの新刊『ファンタジウム』の2巻を、探して探してさ迷うこと3週間。
はるばる出向いた池袋のジュンク堂にも在庫が無かった時点で、結局ネット書店に頼ることにしました…。

好きな作家さんの新刊は、書店で予約して入手するのが1番確実、とはわかっているのですが、私は可能な限り自分の足で書店をめぐって探します。

書店の棚に並んでいるところを、「ああ、あった!」という、嬉しいようなほっとするような気持ちで手に取る瞬間が好きなんです。
なんか…間違ってますかね?

というわけで、そんな苦労をも忘れさせてくれる名作。
杉本亜未さんの『ファンタジウム』1・2巻の感想です!

ファンタジウム 1 (1) (モーニングKC)ファンタジウム 2 (2) (モーニングKC)
マジックとそれに魅せられた人々を『ANIMALX』『独裁者グラナダ』の杉本亜未が描く

マジシャンとして天性の才能をもつ少年・長見良は、難読症というハンディを抱えていた。
平凡なサラリーマン・北條は、良の才能に魅入られ、彼とともに人生を歩む決意をする。

話題の《ペンスピニング》や《スピリチュアル・リーダー》も登場!!
モーニング増刊モーニング2(ツー)」で連載中 (2巻帯より抜粋)

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帯に『独裁者グラナダ』(キャラコミックス)と『ANIMAL X」(「完全版上・下』白泉社&『原始再来 全10巻』(キャラコミックス)の、2作品名が載っている時点でかなりびっくりしましたが。

『2007年に読んだBLコミックマイベスト10』の第1位に、今さら感いっぱいの『アニマルX』を選んでしまった私…。(記事はこちら
その時点で、いかに“杉本ワールド”に、はまったかがおわかり頂けると思うのですが。

独自の視点から描かれる杉本さんの作品世界が、ともかくいいんです。

昨年2007年7月1日の朝日新聞の「コミックガイド」(asahi.com関連記事はこちら)で取り上げられた時にまず驚き、次に「ああ、これで杉本さんを全国の人に知られてしまった」と、すこし物寂しい思いが胸を覆いました。
ですが、「杉本作品にはそれだけの力がある」「もっと多くの人に読まれるべきなんだ」と納得したのも確かです。でも正直、「装丁は古臭いし、絵柄が地味」との評には、ムッとしましたよ。プンプン。

なにはともあれ。

この作品の主人公、長見良(ながみ・りょう)のキラキラした瞳を見て下さい!
曇りなく、前を真っ直ぐ見つめるこの瞳の美しさ。
この瞳の放つ輝きこそが、良のもつ魅力を何よりも強く物語っています。


【ファンタジウム 1・2】

どれだけ簡単に人が人を見捨てるか…… ……俺は知ってる
いくら願っても 決して奇跡が…… 起きないってことも……
それでも…… 1  2  3 


マジシャンだった祖父に憧れながらも、堅実なサラリーマンの道を選んだ北條は、ある日、取引先のカジノで一人の少年・長見良(ながみ・りょう)と出会う。その見事なカードさばきを目にした時、北條は少年がもつマジシャンとしての天賦の才能に気づく。実は、その少年こそ、亡き祖父の唯一の弟子とも言える存在だった。少年の秀でた才能に魅了され、その才能をもっと世に知らしめたいとの思いに駆られる北條。だが、年齢に似合わず世の中を達観している良は、『難読症』という障害を抱えていたのだった……。

* * *

難読症(Dyslexia:ディスレクシア)」(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia))

この障害について、これまでに耳にしたことはあっても、この漫画を読むまで、実際どういったものなのか私には理解できていませんでした。

主人公の長見良は、この生まれつきの障害のために学校の授業を理解することが難しく、同級生からは「勉強が出来ないやつ」と馬鹿にされ、いじめられ、家では仕事の手伝いもろくに出来ないと父親からも疎まれる、という境遇にいます。
ですが、彼は天が与えた特別な才能を持っていました。
それが、マジックでした。

そして幼い頃、祖父・龍五郎の持つトランクから次々とあらわれるマジックの不思議さに憧れながらも、世を放浪するように生きた祖父を反面教師とし、サラリーマンの道を選んだ北條。
だが、良の中に、自分が憧れつつも手に入れられなかった大きな才能と可能性を見出して、共に歩んでいこうとします。


不思議な縁に導かれるように出会った二人が、相手を知ろう、歩み寄ろう、と努力し、思いやる姿がとても素敵!
彼らなら、どんな困難な運命をも切り開いていってくれると信じたい。


杉本さんの作品には、いつも根底に「人はどうしたらその人らしく生きられるか」というテーマががっちりと存在すると思うのですが、今回は『難読症』という障害ゆえに「普通の人とは有無を言わさず一線を引かれてしまった立場にある」良を主人公に据えることで、広い読者に強く訴えかけるものになっています。

1巻では良と北條の出会い、北條の決意、家族と良の関係、良のマジシャンとしての初舞台までが描かれますが、初舞台のシーンで次々と登場するマジックの表現が幻想的で美しく、「ぜんぜん地味じゃないよ!」と大声を上げたくなります。←しつこい
そして、良がマジックを通して、家族と理解しあうシーンは感動です。

2巻では、良の転校、クラスメートからのいじめ、教師との確執、“スピリチュアル・リーダー サカキシン”の登場、シンとの対決、までが描かれます。
特に、良の制服が正統派学ランですごく嬉しかった、と。←そこかよ!笑

変に大人びて達観している良と、彼を取りまく大人たちの思惑。
そして、苦い過去を背負うシンに「食いものにされないように気をつけなさい」と忠告される良。

小学生のとき よく一人で目をつぶってて 1・2・3て 数えて目を あけたら
誰にもがっかりされない自分になって みんなも仲良くしてくれて 
父ちゃんと母ちゃんも俺のことで ケンカしなくなってくれる
そんな奇跡が起きないかって…


良の回想シーンでは、小さい体で一生懸命奇跡を信じた、その心中を思い泣きたくなります。

そして、願いを込めて目を閉じ、3つ数えて目を開けた2巻のラストには、きっと誰もが胸が熱くなる。

確かに、絵柄に少女マンガ特有の華やかさはないかもしれませんが、読者の心を捉えて離さない良というキャラの数多くのエピソードと、キラキラ輝く瞳には、誰しも心を奪われること間違いありません。

「人との関わりあいや出会いを通して、誰もが自分らしく生きていける道を探れるはずだ」という、杉本さんのメッセージがストレートに伝わってきます。
なんだか生きづらいな、と感じている人にこそ読んでもらいたい作品です。

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コメント

papicoさん、こんにちは!
さて、こちらで紹介していただき、感動の嵐だったファンタジウムですが、いま「ネットラジオ ハラショー」で、杉本さんの談話が公開されています。
興味がお有りでしたら、ぜひ。ご存知でしたら、ごめんなさい(^_^;)

私はファンタジウムと出逢って幸運でしたし、奇跡だと思っています。1巻で、私がこの世で一番敬愛する画家「オディロン・ルドン」が出てきたときは、胸がいっぱいになりました。
papicoさんに、あらためてお礼申し上げます。

ラジオでは杉本さんだけでなく、当時愛読していたJUNEの編集長だった佐川さんのお声も拝聴できて、感激もひとしおでした!それにジュネだのBLだのと、電波にのって聞いたのは初めてだったので、それも嬉しくて、恥ずかしくて…。ふふっ

これからも、papicoさんのレビューを楽しみにしてますね!
貴重な情報ありがとうございます!
空美さん、こんばんは!
>ファンタジウムと出逢って幸運でしたし、奇跡だと思っています
誰しも「心の糧」となりえる作品との運命の出会いがあるかと思いますが、微力ながらもそのことに携われたのかしら、と、こちらこそ嬉しく思います(^_^)
>「ネットラジオ ハラショー」
ぜんぜん知らなかったので、早速拝聴して参りました!すごい豪華メンバーでしたね!杉本さんのお声が存外可愛らしくてびっくり。話し方は想像通りでした。笑
「漫画道場」はずっと楽しみにしていたコーナーでしたが、杉本さんが投稿なさっていた頃には私はもうJUNEを卒業してしまっていたんです~。残念!(西 炯子さんのデビューは見届けてるんですけど。)
絶版の「空のアンテナ」も中古で購入して読みましたが、新人とは思えないくらい漫画が上手い作家さんだな、と思いました。竹宮“ゴッド”惠子先生が手放しで褒めるはずですよね。
>ジュネだのBLだのと、電波にのって聞いたのは初めて
私もです!ドキドキしてつい部屋のドアを閉めてしまいましたよ。笑 

ところで、空美さんはルドンがお好きなんですね!私は学生時代、美術史学科だったのですが、何度かルドンの回顧展にも行ってます。鮮やかなカラーの作品の印象が強いルドンですが、はじめて「目玉」をモチーフとしたシリーズを目にしたときの衝撃は今も忘れられません。
お返事ありがとうございます!
papicoさん、こんばんは~。無事にお帰りになられたようで、何よりです(*´o`*)三3
私も何かあるごとに、BLが、あの続きが読めなくなるぅぅっ…と焦燥感を抱くときがあります!
こんなに夢中にさせて、BLって人に例えるならちょっとした小悪魔系かと(笑。

>杉本さんのお声が存外可愛らしくてびっくり。話し方は想像通り
私はもっと甲高いお声かと想像していたので、最初はうろたえてしまいました~。そもそもBLを描いたことのある作家さんのお声を聞いたのは、竹宮恵子さん以外初めてなので(いや、竹宮さんはJUNEかな)、パソコンの前で緊張し、ひとり赤面してしまいました(汗

>杉本さんが投稿なさっていた頃にはJUNEを卒業…西 炯子さんのデビューは見届けてるんです
私もおそらくそのあたりが卒業だったかと…。どちらかといえば小説のほうに気をとられていたので、杉本さんのことはまったく覚えていませんでした。
でも西さんは強烈でしたよ!西さんのコミックは一冊も持っていないのでうろ覚えなんですが、少年とボーイ?が足の長さを比べるシーンと、ガラス越しのキスが印象的だった作品と、捨てられた恋人に「愛ってなに?食べられるのかな?」といって切り返すシーンのある作品が、今でも脳裏に焼きついています。時代が過ぎても心に残る名作です。

>空のアンテナ
噂では知っているんですが、これがなかなか見つからなくて…。でも必ず手に入れて見せますね♪

>ドキドキしてつい部屋のドアを閉め
私は最後まで、ドキドキが止まらなかった小心者でした。てへっ(≧∇≦)
実際、身近にJUNEやBLを愛読している人がいない上、人ごみが苦手なのでコミケやサイン会にも参加したことがなく、今まで「BL」とか「JUNE」とか「やおい」すら口にしたことがないんです。
それはそれで不自由しないんですが、こうしてレビューを読ませていただいて、コメントを書かせていただくことで、救われてるところもあります。 ありがとうございます。

>私は学生時代、美術史学科だった
それで合点がいきました!!papicoさんのお話は、すっきり頭に入ってくるんですよね~。読みやすいというか、きちんと要領よくまとめてあって、でも濃いところは濃い。広く浅く時には深く、その作品に埋没しない程度に入り込める技は、勉学で培われたものなんですね。
これからも、よろしくお願いします。

>ルドンの回顧展にも…「目玉」をモチーフとしたシリーズを目にしたときの衝撃は今も忘れられません
私は地元の美術館で一挙にルドンの作品が集められ、展示会が行われて、それらを目にしたのがきっかけでした。ひと言で言えば、魅了されたに尽きます。私も昔から美術品には興味があって、機会があれば地元で開催される展覧会に出かけますが、これほど特定の好きな画家ができるとは思ってもいなかったです。
確かに「目」というのはルドンを解き明かす上で、重要なモチーフなのかもしれませんね。ギョロリとした目玉親父?のような絵があるかと思えば、代表作のひとつ「眼を閉じて」がありますものね。ルドンを知れば知るほど、奥が深いなぁと思います。ちなみに一番好きなのはアネモネが描かれた作品です。

そんなわけで、かなり脱線してしまって、すみませんでした(滝汗
北条さんのブログによれば、どうやらラジオには続きがあるようで、こちらも聞いてみようかと思います。
毎度の長文で、失礼しました~。また遊びに来ますね!\(^o^)/
空美さん、こんばんは!
>こんなに夢中にさせて、BLって人に例えるならちょっとした小悪魔系
うふふふ。ホントですよね!私なんて、ガッチリ絡めとられてもう人生踏み外している勢いですから…。小悪魔どころかルシファー級に魂を売り渡したって感じですよ。笑

>BLを描いたことのある作家さんのお声
私はヤマシタトモコさんとトジツキハジメさんのサイン会に行ったんですけど、ヤマシタさんはお声も風貌も作風の印象そのまま、トジツキさんはぜんぜん違う!って思ったんです。普段作家さんにお会いする機会なんてないですが、杉本さんのお姿をお声から想像してみるのも楽しいですよね♪サイン会があったら絶対行きたいです!

>勉学で培われたもの
ないないない!知性とは一番縁遠い生活を送ってますから!!
これは何を仰るのかと、超絶ビックリしましたよ(^_^;)いやん、空美さんたら、何にも出ませんことよ。オホホホ。滝汗

>アネモネ
鮮やかなブルーの背景が印象的な絵ですよね?ルドンの絵は見るたびに不思議な浮遊感に襲われます。幻想世界を描く画家の中でも、彼の目には本当にああいう世界が見えていたような気がして素敵ですよね~。

>北条さんのブログ
まあ!そうですか!では私も早速チェックしなくては!いつも貴重な情報をお知らせいただき、ありがとうございます♪
ではまた、おヒマな時にお付き合いくださいね(^_^)



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